19 やぎの世話
 戦後のことだったのでしょうか。
 昭和30年代の初めの頃までは、動物性たんぱく質の多い山羊の乳を得るために多くの家で山羊を飼っていました。
 早春に山羊が出産すると、子山羊の世話とともに、山羊の乳しぼりがはじまります。
 私も学校に行く前に山羊の乳を搾って、飲めるようにするまでの一連の作業を担っていました。手順としては、草などの餌をヤギに与えて餌で山羊の気をそらしておいて、その間に暴れないようにヤギの足を杭に縛って乳を搾りました。
 しかし、忙しかったり厄介になったりすると、餌を与えながら山羊の片足をもって乳を搾ってしまいました。すると、ふいに持っていない方の後ろ足で蹴られたり、乳の入った入れ物をひっくり返されて大慌てすることがありました。特に乳の入った入れ物をひっくり返されて、中の乳がほとんどこぼれてしまった時はがっかりです。
 乳を搾るときは、ヤギの乳頭の上側を親指と人差し指で、乳頭の中に入っている乳が逆流しないようにしっかりと握り、乳を押し出すように中指、薬指、小指と順番に素早く乳頭をにぎってゆきます。すると、乳が水鉄砲から出てくる感じで、入れ物の中に、ジュージューと音をたてて入ります。乳の搾り具合の強さによって、それなりの音になるのも興味そのものです。
 そして乳を搾り終わったら、入れ物を持って勝手に行き、すいはくをビンなどの上にのせ、その上にゴミ濾し用の布巾などを乗せて、上から山羊の乳を注ぎます。
 すると、乳はすいはくの出口からビンなどの中に注がれ、山羊の乳の中に混ざってしまった山羊の毛などのごみは取り除かれます。そしてその乳は、沸騰消毒して一連の作業は終わりとなります。
 この一連の朝の仕事が、朝食前の子供の仕事として、私に割り振られていました。