流薬師堂
 大字志賀第一區川嶋ニアリ、世傳ニ云フ、往昔(おうせき)尊体ノ其初畠山荘司重忠奥方ノ守本尊ナリシガ、畠山家滅後ハ奈何(いかん)ナル処ニアリテヤ、一年洪水ノ為メ川嶋後郊市廼川(いちのかわ)大急曲ニ環涒(かんとん)*1セル澳頭(おうとう)*2ニ漂着シ大楢(おおなら)樹幹ノ又跨(さこ)*3ニ駐(とどま)リ懸(かか)リ在(あ)リタルモノ、時經(へ)テ由縁(ゆえん)*4モ解(わか)リシヨリ其留地ニ近キ村人等(ら)一宇(う)*5ヲ該着辺(がいちゃくへん)*6ニ建(た)テテ奉安祈願セルコト多年ノ後、浸災(しんさい)*7ヲ避(さ)ケシタメ現境内ニ奉遷シテ復(また)多年ヲ經タリ、尊体木彫長七八寸前地ハ艮位(こんい)*8ニ二丁(にちょう)*9許(ばかり)籔林アリ、古薬師ト唱(とな)フ、現地ニ古碑存ス正和二年(1313)九月ノ字アリ餘ハ讀ミ難シ
 附(つけたり)曰(いわく)當薬師尊楢(なら)樹ニトヾマリカヽリシ所ヨリ、其頃以来俗間「木カカリ薬師」ト唱傳(しょうでん)*10セルヲ後ニハ訛(なま)リテ「キカズヤクシ」トスルハヒガ事*11ナリ
   *1:まわりはきだすこと。
   *2:水の曲がりは入ったところの岸辺。
   *3:また。
   *4:ゆかり。
   *5:お堂。
   *6:その流れ着いた辺り。
   *7:大水の被害。
   *8:うしとらの方角、東北。
   *9:1町は109メートル。
   *10:となえ伝えること。
   *11:僻事、まちがったこと。

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2003年5月22日 小川京一郎さん撮影